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うまいち
午市
宮本 百合子
「婦人公論」1922(大正11)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,146 字 · 17 页
「うそじゃあありませんのですよ」
笑いながら、おせいも傍から言葉を添えた。
「ほんとにうちでも不調法なんです」
「……情けないお客様だねえ」
やがて主人は真面目に詰らなそうな声を出して、歎息した。
「貴方、一杯や二杯は、薬にこそなれ、ちっとも毒になぞなるもんじゃあないんですぜ」
「それはそうでしょうな、だから貴方なんかもそんなに御達者なんでしょう」
危く機嫌をわるくしそうだった主人は、健介の言葉で、忽ち調子をとり戻した。
「そうですとも! 全くこれのおかげですよ。これさえありゃあ、もう何にもいりません。一昨年のあの人死にの多かった感冒にだって、こちとらはびくともしないんですからね。ええ、ええ。もうこれだけが、私の楽しみです――山際の安さんなんぞは、随分いけるんでしょう?」
彼等の間には、また新らしく故郷の酒客の噂が上りはじめた。健介は、おふゆを通して、小関の遠縁に当っていた。おふゆの両親が死絶えたので、親類ともいつか疎遠になった小関の一家は、暫く山陰地方にある国へも帰らなかった。今度、健介が、一週間ばかり法事のついでに故郷の様子を見て来たので、彼は、小関のためというより寧ろおふゆのために、おせいを伴(つ)れて訪ねて来たのであった。