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うまいち
午市
宮本 百合子
「婦人公論」1922(大正11)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,146 字 · 17 页
けれども、訪ねて来て見るとおふゆと話す折を、いつも小関の酒機嫌が引さらって行った。やっと今になって故郷の話が持ち出されたので、とかくだまり勝ちだったおふゆは、目に見えて感興を面に現わした。そして、団扇を動かす手も留守にして、それからそれへと、昔の家の模様などを健介に訊きただす。いきおい主人の小関が黙って二人の話を聞かなければならない。――
おせいは静に立って、三尺の高窓から外を見下した。黒い柳の葉に遮られながら、ちらちらちらちら灯の揺れる狭い往来が直ぐ目の下にある。右手の露路を越した彼方から、シャック、シャック、シャック、シャックと調子のよい機械の音が響いて来た。何か、メリヤス類を織る小工場らしく、窓の一方に体を片よせてそっちを眺めると、手拭をかぶって草履ばきの若い女が、黒い、むっとしそうな歯車の間に見えかくれしている。普通の長屋を間に合わせの工場にしてある。道路から透きぬけに奥の方まで見える表には一人二人男が立ち止り、わざと知らん顔をしている女に、ちょいちょい何か云ってからかっている声がする。――低い向い側の屋根からずうっと彼方まで拡がっている夜の空を眺め、貧しいトタン屋根の斜面にどこからか微にさしている月影を見ると、おせいは、急に外が恋しくなった。