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うまいち

午市

宮本 百合子

「婦人公論」1922(大正11)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,146 字 · 17 页

青空文庫

こんな家ごみを出、露路を抜け、からりとした大通りを風に吹かれて歩いたら、どんなに心持がいいだろう。彼女は、もう酒には飽き飽きしていたし、話にも一向興が移らなかった。そうかといって、まさか、もうそんな話は止めましょうよ、とも云いかねるその場の状態が、一層おせいの退屈を募らせた。こんな月の涼やかな夏の良夜を、狭い部屋に閉じ籠って、酒のにおいに当てられて過してしまうのは、如何にも惜しく思われるのである。

おせいは、窓に向ったまま、所在なさそうに下を向いて、帯やおはしょりの端を引張った。

それにしても、もう何時頃になったのだろう。あまりおそくならないうちにここを出て、ゆっくり一停留場も歩いて帰りたい気がする。

彼女は、それとなく皆の方へ振返った。すると、健介が、まるでおせいの望を心の中から読みとりでもしたように、兵児帯の間から時計を出し始めた。

坐りながら、彼女はごく自然に、

「もう何時頃になりまして?」

と訊くことが出来た。

「余り長くお邪魔しても……」

「何、まだ宵のくちですよ。九時になりますまい? 十二時までは電車があるから、まあゆっくりしていらっしゃい」