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はんのすけしゅうげん
半之助祝言
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页
「ついては一つお願いがあるのですが、というのはです、……江戸へ帰るのにですね、その、あれです、お嬢さまを頂きたいんですが」
「なんだと、笙子を、江戸へ?……」
「私の妻に頂いて帰りたいんです」
「あれは埴谷の一人娘だぞ」
「私は三男ですから婿にゆけます」
図書助のへの字なりの口がだらっとあいた。脳震蕩でも起したようなぐあいであるが、続いていきなり笑いだした。
べらぼうに笑いながら、拳で膝を打ち、躯を曲げ、それから途切れ途切れに、
「いって申込め、自分であれに話せ」ひっひと笑いながら、
「――おまえはわる賢い、機転も利く、しかし肝心なところが抜けておる、肝心なところが、まあいってみろ、玄武社の連中もくそもない、誰よりおまえを憎み、おまえに復讐しようとしているのは笙子だ、それを嫁に欲しい、ああ堪らん、腹が痛い、苦しい」
図書助は片手で腹を押え、なおこみあげる笑いのために膏汗を流した。……あまりの騒がしさに吃驚したのだろう、菊枝夫人が入って来て良人の側へ坐った。
「どうあそばしました、そんなに大きな声でお笑いなすって、いったいなにが」
「こいつがな、この折岩が」こう云いかけて、そこを見ると誰もいない、半之助は早くも姿を消していた。