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はんのすけしゅうげん
半之助祝言
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页
すると一条町(ということはあとでわかったのだが)の角のところで、その町ぜんたいを占める広大な邸をみつけた。高い築地塀を三方にまわして、森々たる樹立のあいだに、三層楼の附いた御殿造りの屋根が見える。
半之助は立停って、やや暫くその壮大な構えを眺めていた。
「殿さまの別殿かなにかだな」
彼はそう呟いた。そしてまたぶらぶらと塀に沿って歩いていった。
築地塀は三方だけで、南側は野茨を絡ませた四つ目垣になっていた。そこから南方は林や野や田畑がうちひらけて、遠く国境の山まで見わたすことができる。つまり展望のためにそこだけ四つ目垣にしたらしく思えた。
「すると邸の中も見えるだろう、田舎は暢気なもんだな」
半之助は垣根につかまって邸内を見ようとした。ところがつかまった垣根がかたりと向うへ倒れた。ちょっと驚いたが垣根が倒れたのではなく、実はそこは木戸であって、掛金が外れていたのであった。
彼はあたりを見まわしてから、そっと中へと入っていった。
初めはひと眼だけ見るつもりだったが、ひろびろとした芝生や、丘や、森のような樹立や、大きな泉池や茶屋など、爽やかに手入れのゆき届いた庭で、つい知らず奥へ奥へと惹かれていった。