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はんのすけしゅうげん

半之助祝言

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页

青空文庫

「そいつは臆病ですね、その黒いのは」

半之助はじれったくなってそう云った。

「臆病でもないんだが」

老人が答えた。

「ぶきようで、腰が弱いんだな、もうひと息というところがうまくいかん、そら来い、黒」

「なるほど、うまくないですな」

半之助はこう云ってふと笑った。

「しかし人間にもこんなのがいますね、へまでぶきっちょで、なにをさせても失敗ばかりする、そして蔭でぶつぶつ泣き言を並べる、といったようなのが」

「うんいるな」老人もつい頷いた。

「前田甚内などもその組だろう、あれはいつも落し物をしたような顔をしておる」

「前田って家老の前田さんですか」

「似ておるだろう」老人はこう云って半之助のほうへ振向いた。

「おまけに彼は胆石もちときている、自分では消化不良だなぞと云っておるが、……おまえ見たことのない顔だな」

「そうでしょう、まだ来たばかりですから」

「ではよく見てみろ、わしは保証するが甚内は胆石もちだ、あの顔色は……お?」

老人はとつぜん眼を光らせ、半之助の頭から足のほうまで訝しげに見おろし、それからへの字なりの唇をひきむすんで、石の上に立ちあがった。

「おい、おまえはいったいなに者だ」