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まんじ
卍
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页
そんな体で無理な相談やいうこと自分かて分ってますねんけど、光子さんの方がそないいつまででも一人でいられるはずないさかい、こんなりでいたらもうつい逃げられへんやろか、それが心配で仕方あれしませんねん。それに口でいうのんとお腹の中とはまるきり反対で、出来るもんなら一人前の男と同じに奥様持って暮らして行きたい、世間欺すばっかりやのうて、自分の心まで欺して、ちょっとも外の男と違たとこないように思てたいいう気イあるばっかりか、光子さんみたいな人一倍綺麗な奥様持って、世間の奴らアッといわしてやりたいいう虚栄心まであるのんで、せえだい焦ってて「そんな一時逃れいうて、ええ縁談あったら行くつもりやろ」いうようなイヤ味いいますねん。そいで光子さんは、どない親にいわれてもきっと余所い嫁に行けへん、今のとこ差し迫った縁談あるのんでもなし、そのうち自分も二十五になったら自由結婚出来るようになるし、きっとええ折あるやろさかいまあまあもうちょっと辛抱してて、……そやなかったら死ぬより外に道ないいうて、ようよう納得さしましてんと。
光子さんのその頃の気持、「ほんまのとこ自分にも分らん」