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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

に私は、こないだから夫に口利いてもらお思てて、光子さんのことも打ち明けた方が得なことは話してしまお思てたのんに、さっき不意討ちに笠屋町い訪ンねて来られて、あないなったら妊娠してなさるのんうそやいうこと今更いい出しかねて、うその上塗りしてしもてんけど、こんなことになるのんやったらあの時白状しといたらよかった! 「おい、黙ってたら分らん、返辞したらえやないか」と、夫は出来るだけ腹の虫おさえて、やさしい、静かな声出して、「黙ってるとこみたら、これお前書いたと認めてもええねんなあ?」いうて、そいからだんだん話し出すのん聞いてますと、五、六日前に今橋の事務所の方い突然綿貫が訪ンねて来て面会求めた。そいでどんな用事か思て応接間い通して会うてみたら、「今日お訪ンねしたのんは、実は折入ってお願いしたいことあるのんです」いうて、「多分あんたも御承知でしょうが、僕と徳光光子とは結婚の約束したあるばかりでなく、既に光子は僕の種までも宿してますのんに、こっちの奥さんが中に這入っていろいろ邪魔しなさるのんで、光子の仕打ちこの頃日増しに冷淡になって、今の工合ではいつ結婚してくれるのんか分らんような状態にある。