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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

つまり私たちは光子さん一人が太陽みたいに輝いて見えて、どんなに頭疲れてる時でも光子さんの顔さい見たら生き返ったようになりますのんで、ただそれ一つ楽しみに命つないでいる。光子さんもまた、「なんぼ神経麻痺してたかて、あてに逢うたらハッキリするやろ? そやなかったら熱情足らんねんし」いいなさって、興奮の程度で孰方パッション強いか分る、そやさかい睡眠剤飲ますこと尚更止められへんいいなさいますねん。まあいうてみたら、普通のパッション捧げられても面白ない、薬の力で情慾鎮静さされてしもてても燃えるような愛感じるのでなかったら満足出来へん。――結局二人藻抜けの殻みたいにさして、この世の中に何の望みも興味も持たんと、ただ光子さんいう太陽の光だけで生きてるように、それ以外に何の幸福も求めんようにさしたいいうことになるのんで、薬飲むのん厭がったりしたら泣いて怒んなさるのんです。そら、まあ、自分がどのくらい崇拝しられてるか試してみてそれ愉快がるような心理、前から光子さんにあったことはありましたもんの、そない極端に、ヒステリーみたいなこといい出しなさったのんは、何ぞ別に理由あるのんに違いないのんで、多分綿貫の感化やないか思いますねん。