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まんじ
卍
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页
いうて、うしろから上衣着せたげて、そのままそこに、脱ぎ棄てた着物たとみながらすわってました。「なんでやねん、学校止めんでもええやないか?」「あんな学校行ったかってしょうむない。……会いともない人と顔合わすのんイヤやしなあ。……」「ふん、そうか、そんなんやったら止めてもええなあ」と、夫は感謝の籠った眼つきでそういうたもんの、またなんや知らん物足らんような、気の毒そうな恰好で、「そやけど、なんにもあんな学校に限ったことあれへん、絵エ習いたかったら研究所いでも行ったらどやねん? 僕かって毎朝一緒に出かけた方がええしなあ」いうてくれますねん。そんでも「うちもうどっこも出とないわ、何処行たかてどうせロクなこと覚えへんねよって」いうて、自分ではその日から一廉のハウスワイフになったつもりで、一日家の中で一所懸命仕事しました。夫の腹の中いいましたら、あないに我が儘やった私がまるで生れ変ったみたいに態度改めましたのんが、どない嬉しいか分れしません。いうてまた、二人で仲好う大阪い通てた先度ごろの生活を取り返してみたいような気イもしますねん。そら私かってちょっとでも余計夫の傍に引っ着いてたい、離れたらその間に邪念妄想が起る、夫の顔さい見てたらあの人のこと忘れられるやろ思いますよって、一緒に着いて行きたいですけど、いや、そやない