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なんぽうゆうしん
南方郵信
中村 地平
「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页
金網から離れ、お浜は急にそわそわする。そしてだらしなくはだけている襟もとをあわててかき合わせよう、とする。襟もとがあわさると、こんどは裾がたちまちはだけてしまうのだが、それでもお浜はいくらかほっとする。そして、例のにやにや笑いを浮かべながら、土の上と旦那の顔とを見較べるように眺めている。
そういう時、旦那はいつも上機嫌にからかうのが常である。
「お浜、牡にばかり親切するのでなかど。牝にもオカラをやってくれよ」
お浜は時折り、ワラビやモチクサなどの季節の野の草を、ひとにぎり持ってきて、源吉爺さんに黙ってぬっとさしだすこともある。爺さんはすると、歯のない歯ぐきをまるだしにして喜びながら、両手で押し戴くような真似をして、それを受けとる。孤独な爺さんは、この少しばかり気のおかしい、善良な若い女とむかい合っていると、妙に心がおさまるのである。
晩春の午後、裏庭では旦那が気ぜわしそうに爺さんや、若い衆たちを指図して、小さな祠を荷馬車に積ませていた。
家から一里ばかり離れた、村外れの蜜柑丘には旦那の家の氏神様が祭ってある。高さ一間に足りない小さな祠であるが、その前に佇むと、太平洋の海鳴りの音が微かに聞えてくる。