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なんろ

南路

宮本 百合子

「太陽」1922(大正11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页

青空文庫

けれども、髪を巻パンのように結ったお婆さんは、いくら骨牌に興が乗っても、決して経済のことは忘れない。十分位停車するステーションに来ると、持札を投げすてて外の売店に駈けて行く。そして、果物や糖菓(キャンディー)の紙袋を抱えて来て、皆に食べさせる。出来るだけ食堂に出ず入費を除いて充分に旅行を楽しもうというのである。

たださえ退屈しているところだから、窓を透して、転って行くお婆さんの後つきを見るのは、なかなか罪のないみものであった。

コンダクタアが、ちゃんと番をしているのだから、たとい時間になっても、一分や二分待っていてくれるのは知れきっている。が、年を取って一層不正確になった女性の頭を持つ彼女は、幾度繰返しても、なお初めてのように周章狼狽する。

独りで構内まで行くのは心細いのだろう。娘に、お前もおいで、来ておくれよ、と後を振返って呼びかけ叫びかけ駈けて行く。どうしても、周囲の人が視線を集める。十六七で緑色の着物を着、軽いケープを纏った娘は、丸い顔を赧くし、可愛らしく膨れて、無遠慮な母親を怨めしそうに躊躇しているのである。

幾つもの顔が彼女に向って、窓や踏段(ステップ)から笑み解(ほ)ぐれる。