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なんろ
南路
宮本 百合子
「太陽」1922(大正11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页
砂漠には、一瞬も停止することない色彩の顫動がある。聴けば聴くほど心を彼方に牽き入れる沈黙の声に満ちている。
窓から凝っと自然を眺め、ライラック色の砂地、濃紫と鋭い金色の山巓、微に消える焔色の空を見詰めたら、人は我身を忘れるだろう。
周囲の沈黙が余り深く広いため、機械的な車輪の響などは、ちっとも我々の注意を牽かなくなる。
地平線から、真直に、涯もない思いが忍びよって来る。雲が流れ動く毎に、砂の色が明るくなり、暗くなり、心を潜めると、静かな地球の廻転につれて、滑る砂粒のささやきまで、聴えるように感じられるのである。驟雨(しゅうう)が去り、俄に一面湖水となった砂地の上を駛せ抜けるとき、自分の驚異は、頂上に達した。
一足前に、煤色の雨雲が一団、非常な速力で先駆している。けれども、頭上の雲はまるで燦き、黒燿石のような嶺と漣立つ水の面に、ぱっと、目醒めるような薔薇色を振り撒いているのである。
軽風も流れている。どこかに虹もかかっているに違いない。新鮮に、濡れ、輝く万物の中を、列車は、一筋の黒い飾帯(サッシ)のように縫って行くのである。
自分は、うつろう影と色とに混って、微かな音律を聴くように思った。