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やくどしとエトセトラ
厄年と etc.
寺田 寅彦
「中央公論」1921(大正10)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,428 字 · 19 页
昔の聖人は四十歳にして惑わずと云ったそうである。これが儒教道徳に養われて来たわれわれの祖先の標準となっていた。現代の人間が四十歳くらいで得た人生観や信条をどこまでも十年一日のごとく固守して安心しているのが宜いか悪いか、それとも死ぬまでも惑い悶えて衰頽した躯を荒野に曝すのが偉大であるか愚であるか、それは別問題として、私は「四十にして不惑」という言葉の裏に四十は惑い易い年齢であるという隠れた意味を認めたい。
二十歳代の青年期に蜃気楼のような希望の幻影を追いながら脇目もふらずに芸能の修得に勉めて来た人々の群が、三十前後に実世界の闘技場の埒内へ追い込まれ、そこで銘々のとるべきコースや位置が割り当てられる。競技の進行するに従って自然に優勝者と劣敗者の二つの群が出来てくる。
優者の進歩の速度は始めには目ざましいように早い。しかし始めには正であった加速度はだんだん減少して零になって次には負になる。そうしてちょうど四十歳近くで漸近的に一つの極限に接近すると同時に速度は減退して零に近づく。そこでそのままに自然に任せておけばどうなるだろう。たどり付いた漸近線の水準を保って行かれるだろうか。