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やくどしとエトセトラ

厄年と etc.

寺田 寅彦

「中央公論」1921(大正10)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,428 字 · 19 页

青空文庫

このような疑問の岐路に立ってある人は何の躊躇もなく一つの道をとる。そして爪先下りのなだらかな道を下へ下へとおりて行く、ある人はどこまでも同じ高さの峰伝いに安易な心を抱いて同じ麓の景色を眺めながら、思いがけない懸崖や深淵が路を遮る事の可能性などに心を騒がすようなことなしに夜の宿駅へ急いで行く。しかし少数のある人々はこの生涯の峠に立って蒼空を仰ぐ、そして無限の天頂に輝く太陽を握もうとして懸崖から逆さまに死の谷に墜落する。これらの不幸な人々のうちのきわめて少数なあるものだけは、微塵に砕けた残骸から再生する事によって、始めて得た翼を虚空に羽搏きする。

劣者の道の谷底の漸近線までの部分は優者の道の倒影に似ている。そして谷底まで下りた人の多数はそのままに麓の平野を分けて行くだろうし、少数の人はそこからまた新しい上り坂に取りつきあるいはさらに失脚して再び攀上る見込のない深坑に落ちるのであろうが、そのような岐れ路がやはりほぼ四十余歳の厄年近辺に在るのではあるまいか。

このような他愛もない事を考えながらともかくも三年にわたる厄年を過して来た。厄年に入る前年に私は家族の一人を失ったが、その後にはそれほど著しい不幸には会わなかった。