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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
「井上さん、」と保子は暫くして呼びかけた、「動物園か活動にでも行ってみませんか。」
「ええ、行ってもよござんす。どうせ何かで時間をつぶさなくちゃならないから。」
「じゃあ止すわ。」と保子は吐き出すようにして云った。
周平は顔を挙げた。見ると、保子は冷かに顔を引緊めて、何かを内心で苛立ってるらしかった。
「なぜです。」と彼は尋ねた。
「だって、人が折角誘うのに、どうせ何かで時間をつぶすのだからって挨拶があるものですか。時間つぶしの相手なんか真平よ。」
「じゃあ時間つぶしというのを取消しましょう。」
「取消したって同じよ。」
それでも二人は、隆吉を連れて、結局出かけることになった。保子はいやに冷かな態度をしていた。周平はそれを横目で窺いながら、隆吉の方をばかり相手にした。
彼には保子の気持が少しも分らなかった。彼を引止めたり外に誘い出したりする彼女と、何かに苛立って冷淡な素振りを見せる彼女とが、別々なものとなって彼の眼に映じた。もうどうでもいいのだと思っても、それがやはり気にかかった。
彼女は少し身を反らせ加減にして、先に立って歩いて行った。小さくきちっと背中高に帯を結んで、上から絽縮緬の羽織をしっくりとまとい、真直に伸した手を足の運動に合して振りながら、すたすた歩いて行く痩せ形の姿は、或る近づき難い冷たさを持っていた