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おじ
叔父
豊島 与志雄
「改造」1925(大正14)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,585 字 · 24 页
「初めてお目にかかります。」と低い声で笹部は云った。
「やあ……。こちらへ来給え、さあ、ずっと。」
喜代子までがもじもじしていた。そして漸く座に就くと、喜代子は顔を伏せたまま云った。
「今日――お邪魔ではございませんかしら。」
「なあに、丁度いいところだった。」
だが、そうして対座してみると、少しも話がなかった。中野さんは文学方面の事は何にも知らなかったし、文学者のことを異人種ででもあるように漠然と想像していただけで、大して興味を持っていなかった。笹部は実業方面のことには更に知識がなく、また興味も持っていなかった。二人の間に持出された話題はみな、二三言で鳧がついてしまった。喜代子までが変に取澄して黙っていた。
すっかり調子が違ったな、と中野さんは思った。そして喜代子から転じて笹部の方へ向ける中野さんの眼は、沈黙がちなうちに次第に鋭くなっていった。
中野さんは骨董品をでも鑑賞するような風に、いろんなことを見て取った。――喜代子の顔に、ぽつりぽつりとごく僅な雀斑が見えていた。その今まで気付かなかった雀斑が、心の持ちようによって、彼女の表情を一層底深くなしたり浅薄になしたりした。