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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

燃える炎のような眼でじっとそれを見ていたルスタムは、準備が整うと、

「もうよろしい。用があったら呼ぶから彼方に行っていろ」

侍僕が胸に手を当て、引きさがりかけると、ルスタムは、更に呼びかけた。

「今夜は誰にも会わぬから人は入れるな」

ルスタムは、酒瓶に手をかけた。小さい燈の下で、酒はごくり、ごくり、豊かな音を立てて、脚高な盃につがれた。芳ばしい、神経を引立てる香が四辺に散った。ルスタムは、右手に盃を持ち、左手で白髪を胸に押しつけながら、盃に唇をつけようとした。が、彼は、何とも知れず喉元にこみあげて来る悲しみを感じ、ごくりと喉をならして、盃をおろした。

人気ない卓の上で、酒はいよいよ愛らしい琥珀色に輝いた。それを看ているうちに、ルスタムの眼では、燈の色も、盃の形も次第にぼやけ歪んで来た。彼は、鼻の奥にむずむず涙腺から流れ下るものを感じた。

ルスタムは自分を叱るように、盃を握ると、一いきに酒を煽った。空の盃を手から離さずにまた注いだ。また煽った。三盃そういう風に飲むと、彼は大きく息をつき、卓に肱をかけ、その手で頭を支えた。ルスタムは、自分の戦士としての最後が、こういう形で示されようとは思っていなかった。