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ふるいど

古井戸

豊島 与志雄

「中央公論」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,433 字 · 43 页

青空文庫

あたし喫驚して、いろいろ恐い夢の話を、一生懸命に、教った通り話したの。恐い夢の話を聞いて、その通りに思いこまなけりゃいけないって、そうお父さんに云われたから、あたし、夢にみたんだ、夢にみたんだって、しょっちゅう考えてたのよ。すると、何だか、本当にみたような気もするの。あたし恐いわ。」

彼女は眼をぎらぎら光らしていた。

「どんな夢です。」

それは馬鹿馬鹿しい夢だった。広い綺麗な庭の中に車井戸があったり、庭の古井戸の跡に赤ん坊の泣声がしたり、女の首がどこからか転ってきたり、其他いろんなことだった。然しどれもみな、彼が友人から聞いた昔話に基いてるものであることは、明かに見て取られた。

「そして、お母さんは……。」

「お母さんはね、あたしが叱られて泣いてると、お父さんと喧嘩をして、ひどく打たれたのよ。それからちっとも、あたしの味方をしてくれないの。」

「そして、夢をみたことは本当なんですね。」

「ええないの。………だけど、恐いわ。」

彼は光子を抱きしめた。

「私がこれからついてあげるから、もう夢の話なんか考えちゃいけません。ねえ、忘れてしまうんですよ。誰が何と聞いても、知らないと云って、忘れてしまうんですよ。