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ふるいど

古井戸

豊島 与志雄

「中央公論」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,433 字 · 43 页

青空文庫

然しやがてまた、じりじりと気持が欝積してきて、どんなことになるか分らなくなった。光子と親子だということが、堪えがたい圧迫となってきた。

彼は光子の手を握ってやって、表面に光の浮いた大きな奥深い眼を覗きこんで、その中に自分の心を溺らそうとした。

光子の容態は、良いとも悪いともつかず、何等の変化も見せなかった。同じような昼と夜とが続いた。

五日目頃から、光子の顔は急に輝いたり曇ったりし初めた。長く笑顔を続けてるかと思うと、また涙ぐんでいたりした。

彼は心配しだした。夜遅くまでついていた。他に名医を迎えたらどうかと、房子に云ってもみた。

「いや、気力が出て来たのだ。心配のことはない。」

眉根を曇らしている房子へ、松木は平然と云った。それを聞くと彼はかっとなった。

「然し何だか……。手後れになっても構わないんですか。」

「大丈夫です。」

彼は坐り直して、松木の方へ向き返った。松木もじっと彼の方を見ていた。そして二人は長い間対坐していた。彼は息苦しくなって、我を忘れかけようとしてはまたはっとした。しまいには何もかもぼんやりしてしまった。眼に一杯涙が出ていた。

「片山さん。