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ふるいど
古井戸
豊島 与志雄
「中央公論」1925(大正14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,433 字 · 43 页
鉄棒、荒縄、鍬そんなものが用意された。
石は半ば土に埋ってるように見えたが、案外底が平らで、実は地面にのっかってるだけだった。深く掘る必要はなかった。然し、鉄棒を梃にして押し動かそうとすると、そこの地面が崩れ落ちたり、足がめいり込んだりして、一寸困難だった。がそれが却って仕合せで、荒縄を下から通すことが出来て、二人で運び動かせた。
ほっと息をついて、見ると、思いもよらない大きな穴が、宛も陥没地のような風に、縁に一尺ばかりの断層を見せて、そこに口を開いていた。
「一体何でしょう、ここは……。」
彼はちらと松木の顔を見やった。
「池でも埋めた跡ですかな。」
松木はそっぽを向いて、額の汗を拭いていた。
「それにしても……。」
方々を力足で踏んで見ると、陥没の範囲が次第に大きくなっていった。
「掘ってみましょうか。」
「さあーうっかり手をつけて……。」
「なあに、御自分の庭じゃありませんか。金魚池でも掘るつもりにすりゃあ……。」
松木はじろりと彼の顔を見た。
「なるほど、金魚池……。」一寸間を置いてから早口に云い初めた。「光子が金魚が好きでしてね。随分買ってやったものですが、何しろ硝子の容物でしょう、じきに死んでしまうので、それきり一切金魚は止めましたが、ここに池を掘ってやりゃあ、そんなこともありますまい。