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こきんしゅうまきのご

古今集巻之五

山本 周五郎

「文藝春秋」文藝春秋新社、1958(昭和33)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,482 字 · 43 页

青空文庫

と五郎太は云った、「おれが大目付だったことは幸いだし、柳田も大丈夫だ、いいか、あとで詳しい打合せをするが、病死だということをよく覚えていてくれ」

そして伊太夫に頷き、主計には座を外すようにと云った。

主計は自分の居間へゆき、召使のたみに茶を命じた。外はすっかり明るくなり、あけてある窓の向うに、斜めからさす朝日をあびて、橙色に染まっている女竹の藪が見えた。

「そうだろうか」と呟きながら、主計は自分の手指を見、うろたえたようにその眼をそむけた。短刀を握ったままの妻の手が、血に染まってい、その血のどす黒く乾いていたことを思いだしたのである。杉江は前のめりに、半身を夜具からのりだして死んでいた。主計はその躯を横にしてやったのだが、そのとき見た妻の手が、強烈な印象として残った。

「そうだろうか」と彼はまた呟いた、「――いやそうではあるまい、そのために自殺するのなら、一と言ぐらいおれになにか云った筈だ」

嫁して三年、子がなければ離別する、という俗説がある。もちろん俗説ではあるが、家系を大切にする武家ではかなり重くみられていたことで、そういう場合には離別をしないまでも、側女を置くことは殆んど通例になっていた。