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こきんしゅうまきのご
古今集巻之五
山本 周五郎
「文藝春秋」文藝春秋新社、1958(昭和33)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,482 字 · 43 页
「なんの話かしら」お袖は小光を見た。
「米さんのことよ」と小光が云った、「このまえ話しかけてよしたでしょ、きっとあのときのことよ」
「そんなこと話したかしら」
「とっときのおのろけじゃないの」
「酔ってたのね」お袖は盃を取りあげ、小光が酌をした。お袖はそれを飲んで、うっとりしたような眼つきで窓の外を見た、「――米さん、……なつかしいわね」
「思いいれよろしく、えへん」と小光が云った。
お袖は聞きながして、きまじめに話しだした。主計はまえに途中まで聞き、なにやら身につまされたのを覚えている。お袖は木綿問屋の主人にひかされてから、まもなく、小さいじぶんに知っていた男と出会った。そうだ、相手は幼な馴染だった。いっしょになるために苦労したのではない。二度と逢うまいとして苦しいおもいをしたんだ、と主計は聞きながら思いだしていた。
――死なれたあとで、おれは初めて杉江が恋しくなった、憎い、じつに憎いやつだと思いながら、どうしようもないほどあいつが恋しいと、主計は思った。この気持が、お袖の悲しい話に似ていたんだ。
お袖はほかにも幾つか話をした。木綿問屋と八年、夫婦としてくらしたが、主人が泊りがけで旅に出た留守、若い手代とあやまちをおかした。