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こぼく
古木
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,648 字 · 24 页
そうした祝典も、やがて、局面が一変しました。或る夜深更、椎の木は火焔に包まれたのです。
椎の木は、ちょっとした崖の縁に立っていました。その崖の下一帯が、焼夷弾の密集に見舞われました。蒼白い閃光に次いで、赤い焔が人家の軒先に流れ、あちこちから、どっと燃え上りました。風が加わると、それが一面の火焔となりました。
火焔は崖に沿って巻き上りました。巻き上り巻き上り、高い火先は、逆に後ろへ巻き返しました。恰もこの崖のところへ、下からと上からと二つの逆風が合流してるような工合でした。或る寮になってる大きな建物から、最も大きな火焔が巻き上りました。それを、椎の木は真正面に受けとめました。
椎の木は傲然とつっ立っていました。その茂みに沿って、火焔は高さを競うかのように巻き上りました。青葉の壁と火焔の壁と、すれすれに対抗しました。暫くすると、その二つの壁が密着し、ついで互に喰いこみました。一時は、青葉の壁が火焔の壁を抱き込んで制圧するかと思われました。その時、なにか深い戦慄が起りました。そして……それまで自若として抵抗し続けてきた椎の木が、俄に、葉から枝から幹までぼっと燃え上りました。