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こぼく
古木
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,648 字 · 24 页
だが、燃えてしまったというのではなく、焔に包まれたというが本当でありまして、やがてその焔も衰え、崖から巻き上る焔も衰えました。
大火災の煌々たる明るみの後に、暫し暁闇がたゆたい、それから、煙と灰に空を蔽われてる盲いたような一日となりました。それは一日だけのことでしたが、椎の木にとっては、来る日来る日がすべてそうだったでありましょう。幹や枝は半面焦げ、葉は落ちつくし、ただ下枝の先にふしぎにも若葉が少し残ってるきりでした。椋鳥や雀もどこかへ逃げてしまいました。
後日、植木屋が来た時、その意見では、この椎の木が生きるか死ぬか、全く不明だとのことでした。或は夏すぎて時ならぬ若芽を出すかも知れないが、それから先が全く分らないとのことでした。
夏の陽が照り、秋の陽が照りました。下枝の先の若葉も落ちてしまいました。時ならぬ若芽などは一向に出ませんでした。黒ずみ皺だった幹、焦げた枝、それがやはり中空に聳えて、ただ静まり返っていました。
その姿を、幾度も幾度も、そして長く倦きずに柴田巳之助は眺めました。病床から硝子戸ごしに外を見る時、眼に映るものは殆んどそれに限られるようになりました。