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たいふうのこ

台風の子

小川 未明

「日本の子供」1941(昭和16)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,662 字 · 8 页

青空文庫

しかし老人の顔は、たいてい曇っていました。

「また出水するだろう、それで、床板をぬらすし、病気は出るし、作物にはよくないだろう。」

こう考えるのは、当然のことでした。しかし若いものは、元気よく見られました。男も、女も、なんの屈託もなさそうな顔つきをしています。むしろ、たまには、これくらいの苦しい経験をするほうが身の薬だと喜ぶようにさえいきいきとしていました。なかにも小さな子供たちは、世の中がたちまち変わったような気がして、はだしで飛び出して、ざぶざぶと小川となった往来をふみわけていました。

「いつも、こんなように、ここへ川が流れているといいんだね。」

また一人の子は、赤い糸を濁った水の中に流して、炎のごとく、へびのように、ちらちらするのをおもしろがって見ていました。ふだんなら、ここを自転車や、自動車が通って、夢にもこんな遊びがされるとは思われなかったのです。まったく台風のおかげでした。なんでも新しく、珍しく、元気のいいことが、子供にとってうれしかったのでした。

夕刻のラジオは、いよいよ夜になると、風速三十メートルに達するであろうというのです。

「兄さん、いま原っぱに建てかけている家が、飛ぶかもしれないね。