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どうほう
同胞
豊島 与志雄
「中央公論」1924(大正13)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,713 字 · 32 页
書いてある事柄なんかどうでもよくて、ただ恒夫の声を聞くのが目的らしかった。
「僕が小さい時、」と恒夫は茂夫に云った、「御伽話やお化の話を沢山聞いたから、そのお返しなんだよ、屹度。」それから彼は声を低めた。「お父さんも死ぬ前に書物を読んで貰いたがったそうだから、お祖母さんももう長く生きないかも知れない。」
「大丈夫だよ、まだ元気じゃないか。」
茂夫は打消すようにそう答えたが、祖母の所へ行くと、顔を伏せて固くなってしまった。恒夫に代って書物を読んでやる時には、変に声が震えた。
「ありがとう。もうそれくらいにしておきましょう。」と祖母は云って、じっと茂夫の様子を見守った。「またこんど来た時に先を読んで下さいね。」
「ええ。」と茂夫は低く答えた。
「恒夫にもあなたみたいな兄弟があったら、どんなにか心強いことでしょう。……いつまでも親しくしてやって下さいよ。」
恒夫はひょいと顔を挙げた。
「じゃあ僕達は兄弟になっていいの。」
「え、あなた達が……。」
「お祖母さんがそう云えば、僕達はいつでも兄弟になって構わないんです。」
云ってしまってから恒夫は自ら喫驚した。祖母は頭を細かく震わせて、これまで見たこともない大きな眼をして、二人の顔をじっと見比べていた。