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どうほう
同胞
豊島 与志雄
「中央公論」1924(大正13)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,713 字 · 32 页
茂夫は今にも泣き出しそうな顔をして、不意に立上った。
「僕また来ます。」
恒夫も我知らず立上った。そして茂夫の後について祖母の室を出ながら、半ば口の中で囁いた。
「大丈夫だよ。……お祖母さんは耄碌してるから、分りゃしないよ。」
五月のはじめ、ひどい暴風雨が襲ってきた。真暗な低い空から、豆粒のような雹が降ってきて、それが止むと、雨と風とが次第に勢を増して、一晩中荒れ狂った。宵のうちに、電燈が二度も消えた。
その時から、祖母の容態が俄に悪くなった。医者が日に何度も来たし、看護婦もやって来た。
三日目の朝、恒夫はいつもの通り学校へ出かけようとすると、祖父の室へ呼びつけられた。祖父と母とが火鉢を挾んで坐っていた。火鉢の縁で長い煙管を、祖父がいつもより強い力ではたいているので、恒夫はただごとでないと感じた。そしておずおずと其処に坐ると、母はいきなり云い出した。
「恒夫さん、家へよく遊びに来る野田という人ね、あの人は小野田茂夫さんじゃありませんか。え……嘘を云わないで、はっきり御返事をなさい。」
恒夫は次第に頭を低く垂れて、唇をかみしめた。
「どうなんです。茂夫さんでしょう。