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めいじんじょうずにきく

名人上手に聴く

野呂 栄太郎

「鉄塔」1933(昭和8)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,227 字 · 7 页

青空文庫

もう三、四カ月も前であったと思うが、偶然の機会に、木村八段の将棋講座のラジオ放送を聞いた。飛車落ち定石の説明のようであったが、私の聞いたのはその終わりの五、六分間である。木村八段はそこで、「上手に対して飛車落ち程度でさせるようになると、そろそろ定石を無視して自己流の差し方をするものであるが、それは厳重に慎まねばならぬ。よく人は、こちらがいくら定石通りに差そうと思っても、相手方がそれに応ずるように差してこないから、定石など実践においては役に立たない、というが、これは大きな心得違いだ。飛車落ちの対局だからといって、飛車落ちの定石がそのまま適用されるものではない。お互いに定石を紋切り型に繰り返すだけなら何の変哲もないものになってしまうだろう。上達して名人上手と言われるようになればなるほど、ますます変化を試みるが、それは決して定石を無視して差すのではなくして、定石に基づき、その上で変化を試みるのであって、いわば定石をさらに発展させて新しい定石を生み出すのである。実戦を重ねるに従って定石を始めて活用できるようになるのだ」というような意味のことを言われたと記憶するが、この木村八段のご注意は非常に深い感銘を私に与えた。