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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
この間も船は帆駛って行った。名残の夕筒も次第にさめ、海は漸次暗くなった。帆にぶつかる風の音も、夜に入るにしたがって、次第にその音を高めて来た。
敵が討ちとうござります
と、甚内は顔を上げた。
「お武家様」といった声には、強い決心がこもっていた。「よく教えてくださいました。厚くお礼を申します。いえもう兄はおっしゃる通り、殺されたに相違ございますまい。可哀そうな兄でございます。死んでも死に切れはしますまい。また私と致しましても、諦めることは出来ません。その侍とお北とを、地を掘っても探し出し、殺してやりとうございます。ハイ、敵が討ちたいので。……そこでお尋ね致しますが、そいつら二人は今もなお、追分にいるのでございましょうか?」
「いや」と侍は気の毒そうに、「甚三を殺したその晩に、二人ながら立ち退いた」
「それはそうでございましょうな。人を一人殺したからには、その土地にはおられますまい。じゃそいつらは行方不明で?」
「さよう、行方は不明だな」
「それは残念でございますなあ」見る見る甚内は打ち悄れた。
しかし侍は元気付けるように、「恐らくは江戸にいようと思う」