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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「そんな筈はねえ、きっと知ってる」

「おかしいな。おれは知らないよ」

「獅子ヶ岩から半町北だ」

「獅子ヶ岩から半町北と?」

「近来普請に取りかかったやしきだ」

「や、それじゃ『主知らずの別荘』か?」

「そうれ、ちゃアんと知ってるでねえか」

「その別荘なら知ってるとも」

「それがおれの主人の巣だ」

「ふうん、そうか。やっと解った」

「随分有名な邸だろうが?」

「銚子中で評判の邸だ」

「それがおれの主人の邸だ」

「そこでお前にきくことがある。何んと思ってあんな普請をした?」

「あんな普請とはどんな普請だ?」

「まるで砦の構えではないか」

「…………」

「厚い石垣、高い土塀、たとえ大砲を打ちかけても、壊れそうもない厳重な門、海水をたたえた深い堀、上げ下げ自由な鉄の釣り橋、え、オイまるで砦じゃないか」

「おれの知ったことじゃねえ」

「で、主人はいつ来たのだ?」

「うん、主人はずっと以前からよ……そうさ今から二月ほど前から、こっそりあそこへ来ているんだ」

「ほほう、そうか、それは知らなかった」

「ところが他のご家族達も、二、三日中には越して来るのだ」

「それで家族は多いのか?」

「うん、奥様とお嬢様と、坊様と召使い達だ」