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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「これが世間へ洩れようものなら、どんな大事が起ころうもしれぬ。早く手当をしなければならない」――で倉皇として家へ帰った。

ようやくわかった切り髪の女

「旦那お家でござんすかえ」

ご用聞きの松五郎が、こういいながら訪ねて来たのは、その同じ日の午後のことであった。「おお小松屋か、こっちへはいれ。……どうだ、大分寒くなったな」

玻璃窓の平八は炬燵の上で、市中図面を見ていたが、物憂そうに声をかけた。

「へい、有難う存じます。ではご免を蒙りまして。おや何かお調べ物で?」

「ナーニ江戸の図面だよ。俺も近頃は暇だからな、所在なさに見ているやつさ」

「お暇は結構でございますな」「やむを得ない暇なのさ」「やむを得ないはいけませんな」

すると平八は苦笑したが、「俺もこの頃はヤキが廻ったよ。どうも一向元気がない」「いよいよもっていけませんな」「と、いうのもあの事件以来だ」「鼓賊からでございますかな?」

すると平八は頷いたが、「こう目星が外れては、俺もねっから値打ちがないよ」

「実はね、旦那。その事について、よい耳をお聞かせにあがったんで」小松屋松五郎は膝を進めた。

「ふうん、そうかい、そいつは有難いね」