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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

で、切り髪と鼓とは、深い関係がなければならない。さて、ところで、鼓の音を、二度目に俺が聞いたのは、池ノ端の界隈であった。そうしてその時は鼓賊めが、確かに鼓を打っていた筈だ。しかしいよいよとらえてみれば、能役者観世銀之丞であった。ううむ、こいつが判らない」

ここまで考えて来て平八は、行きづまらざるを得なかった。

彼の考えを押し詰めて行けば、能役者観世銀之丞が、鼓賊でなければならなかった。

「いやいや断じてそんなことはない」

ぼやけた声でこういうと、彼はトボトボとあるき出した。彼はスッカリまいってしまった。精も根も尽きてしまった。

その日も暮れて夜となった時、彼は自宅へ帰って来た。と、全く意外なことが、彼の帰りを待ちかまえていた。

碩翁様からの使者であった。

「はてな?」

と彼は首を傾げた。

役付いていた昔から、碩翁様には一方ならず、彼は恩顧を蒙っていた。役目を引いた今日でも、二人は仲のよい碁敵であった。

「わざわざのお使者とは不思議だな」

怪しみながら衣服を改め、使者に伴われて出かけて行った。

彼が自宅へ帰ったのは、夜もずっと更けてからであったが、彼はなんとなくニコツイていた。