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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「人間の急所はまず眉間だ。眉間を目掛けて投げてこい」「それじゃ思いきって投げますべえ」

二人は左右へス――ッと離れた。あわいはおおかた十間もあろうか、一本の鉄扇を右手に握り、周作は笑って突っ立った。

「はじめの一つはお毒見だ」

こういいながら甚内は、手頃の小石を一つ握った。

「それじゃいよいよやりますだよ」叫ぶと同時にピュ――ッと投げた。恐ろしいような速さであった。と周作の鉄扇が、チラリと左へ傾いたらしい。カチッという音がした。つづいてドンという音がした。石が鉄扇へさわった音と、板の間へ落ちた音であった。

「やり損なったかな、こいつアいけねえ。が、二度目から本式だ」

甚内は二つ目の石を取った。とまたピュ――ッと投げつけた。今度は鉄扇が右に動き、カチッという音がして、石は右手へ転がり落ちた。

「ほう、こいつも失敗か」甚内は呆れたというように、口をあけて突っ立ったが、「よし」というと残りの石を、一度に掬って懐中へ入れた。

「ようござんすか、先生様、今度は続けて投げますぞ」

「うん、よろしい、好きなようにせい」

その瞬間に甚内の左手が、懐中の中へスルリとはいり、石を握った手首ばかりを、襟からヌッと外へ出した。