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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

保証する」「有難いことでございます」

こうして甚内はこの日以来、千葉道場の内弟子となり、五寸釘手裏剣の妙法を周作から伝授されることとなった。教える周作は天下一の剣聖、習う甚内には下地がある。これで上達しなかったら、それこそ面妖といわざるを得ない。

ところで一方甚内は、武芸を習う余暇をもって、江戸市中を万遍なくあるき、目差す敵を探すことにした。しかし直接の用事もないのに、広い市中をブラブラと、手ぶらであるくということは、かなり退屈なことであった。そこでいろいろ考えた末、「追分を唄って合力を乞い、軒別に尋ねてあるくことにしよう」こういうことに心をきめた。

既に以前記したように、元来甚内は追分にかけては、からきし唄えない人間であった。それが一夜奇怪な理由から、唄えるようになってからは、彼はにわかに興味を覚え、ない歌詞までも自分で作って、折にふれては唄い唄いした。しかるにまことに不思議なことには、彼の唄の節たるや、兄甚三そっくりであった。ちょうど甚三その人が、甚内の腹にでも宿っていて、その甚三の唄う唄が、甚内の口から出るのではないかと、こう疑われるほどであった。