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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

そこに宏壮な邸があった。

二千四百石のお旗本、お船手頭の首位を占める、向井将監の邸であったが、つと平八は玄関へかかり、一封の書面を差し出した。碩翁様からの紹介状であった。

「殿様ご在宅でございましたら、お目通り致しとう存じます」

「しばらく」

と取り次ぎは引っ込んだが、すぐに引っ返して現われた。

「お目にかかるそうでございます。いざお通りくださいますよう」

「ご免」

というと玄関へ上がり、そこで刀を取り次ぎへ渡し、郡上平八は奥へ通った。

待つ間ほどなく現われたのは、大兵肥満威厳のある、五十年輩の武士であったが、すなわち向井将監であった。

「おおそこもとが郡上氏か、玻璃窓の高名存じておる。碩翁殿よりの紹介状、丁寧でかえって痛み入る。くつろぐがよい、ゆっくりしやれ」

濶達豪放な態度であった。

「早速お目通りお許しくだされ、有難き仕合わせに存じます」

「大坂表で処刑された、海賊赤格子九郎右衛門について、何か聞きたいということだが」

「ハイ、さようにございます。お殿様には先祖代々、お船手頭でございまして、その方面の智識にかけては、他に匹儔がございませぬ筈、つきましては赤格子九郎右衛門が、乗り廻したところの海賊船の、構造ご存知ではございますまいか?」