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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
掛かれといったから掛かったんで。ぶん撲られたそのあげく、あやまるなんてコケな話だ」
「みんな手前達がトンマだからさ。文句をいわずとあやまれあやまれ」――で、賊どもがあやまるという、滑稽な幕がひらかれた。
森田屋清蔵の海賊船は梵字丸と呼ばれていた。その梵字丸の胴の間に、苦笑いをして坐っているのは、他でもない平八で、それと向かい合って坐っているのは、すなわち森田屋清蔵であった。四十五、六の立派な仁態、デップリと肥えた赧ら顔、しかもみなりは縞物ずくめで、どこから見ても海賊とは見えず、まずは大商店の旦那である。側に大刀をひきつけてはいるが、それさえ一向そぐわない。
掠奪を終えた梵字丸は、しんしんと駛っているらしい。轟々という浪の音、キ――キ――という帆鳴りの音、板と板とがぶつかり合う、軋り音さえ聞こえて来た。
「旦那がおいでと知っていたら、けっして掛かるんじゃなかったのに、とんだドジをふみやした。どうぞマアごかんべんを願います」森田屋清蔵は手を揉んだが、「それに致してもそのおみなりで、どちらへお出かけでございましたな。」
「うん、これか」といいながら、平八は自分を見廻したが「どうだ森田屋、似合うかな」