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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

陸地を辿って行くことにしよう」

腹へ滲みわたる鼓の音

亀戸から市川へ出、八幡を過ぎ船橋へあらわれ、津田沼から幕張を経、検見川の宿まで来た時であったが、茶屋へ休んで一杯ひっかけ、いざ行こうと腰を上げた時、ふと眼についたものがあった。というのは道標で、それには不思議はなかったが、その道標の真ん中所に、十文字の記号が石灰で、白く書かれてあるのであった。「婆さん」と次郎吉は話しかけた。「ありゃあ何だね、あの印は?」「あああの十文字でございますかな」茶店の婆さんは興もなさそうに、「さあ、なんでございますかね。妾にはトンとわかりませんが。なんでも今から一月ほど前から、あっちにもこっちにもああいう印が、書いてあるそうでございますよ」「あっちにもこっちにもあるんだって? ヘエ、そいつあ不思議だね」「それもあなた成東街道を、銚子まで続いているそうで」「ふうむ、なるほど、銚子までね」次郎吉は腕を組んで考え込んだ。

「ははあわかった。これはこうだ。人寄せの符号に相違ねえ。仲間へ知らせる人寄せ符号だ。……なんだかちょっと気になるなあ。……よし、ひとつ突き止めてやろう。