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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

犬も歩けば棒というが、鼠小僧が田舎廻りをして、こんなご馳走にありつこうとは、いや夢にも思わなかったなあ。どれ」というと鼓を取り上げ、一調子ポ――ンと打ち込んだ。やっぱり同じ音色であった。

「こいつあいよいよ間違いはねえ。驚いたなあ」と呟いた時、

「オイ、千三屋!」

と呼ぶ声がした。

「え!」と驚いた次郎吉が、グルリ背後を振り返って見ると、一人の武士が岩蔭から、じっとこっちを見詰めていた。

「おっ、あなたは平手様!」ギョッとして次郎吉は叫んだものである。

地下二十尺救助を乞う

「おおやっぱり千三屋か。妙なところで逢ったなあ。これは奇遇だ、いや奇遇だ」こういいながら近寄って来たのは、他ならぬ平手造酒であった。今年の真夏追分宿で、仲よく(?)つきあった頃から見ると、多少やつれてはいたけれど、尚精悍の風貌は、眉宇のあいだに現われていた。「オイ千三屋」と叱るように、「実に貴様は悪い奴だな。観世の小鼓をなぜ盗んだ」「ああこいつでございますか」次郎吉はテレたように笑ったが、「へい、いかにも追分では、無断拝借をいたしやした。だがその後観世様へ、一旦ご返却いたしましたので」