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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

それに銚子ははじめてだからな。……おや、あれはなんだろう? おかしなものが流れ寄ったぞ」

つと渚へ下りて行き、泡立つ潮へ手を入れると、グイと何かひき出した。それは細身の脇差しの鞘で、渋い蝋色に塗られていた。

「はてな?」と造酒は首をかしげたが、

「この鞘には見覚えがある」……で、鞘口へ眼をやった。と粘土が詰められてあった。粘土を取って逆に握り、ヒューッとひとつ振ってみた。すると、中から落ちて来たのは、小さく畳んだ紙であった。「これは不思議」と呟きながら、紙をひらくと血で書いたらしい、一行の文字が現われた。読み下した造酒の顔色が、サッと変ったのはどうしたのであろう? これは驚くのが当然であった。紙には次のように書かれてあった。

「主知らずの別荘。地下二十尺。救助を乞う。観世銀之丞」

差し覗いていた次郎吉も、これを見ると眼をひそめた。

「こいつあ平手さん大変だ。文があんまり短くて、はっきりしたことは解らねえが、なんでも観世銀之丞さんは、悪い奴らにとっ掴まり、主知らずとかいう別荘へ、押し込められているのです。地下二十尺というからには、恐ろしい地下室に違えねえ。