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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
丑松の部屋へはいり込み、廊下の様子をうかがった。しんしんと四辺は静かであった。物寂しく人気がない。
お妙の部屋へ忍び込み、様子をうかがっていた平八は、向こう側の足音が絶えたので、小首を傾けざるを得なかった。
「さてはこっちの木精かな? 奇妙きわまる館の造り、俺の歩く足音が、向こうの壁へ響くのかもしれない。名代の赤格子九郎右衛門だ、建築学でも大家だそうな。これは木精に相違ない。どれソロソロ歩いてみようか」
首につるした密書箱を、懐中の中でしっかりと握り、平八は部屋から廊下へ出た。そうしていっそう足音を忍ばせ、東側の長廊下を北へ辿った。
和泉屋次郎吉は名誉の盗賊、相手がいかに足音を忍ばせ、空を踏むように歩いたところで、聞きのがすようなことはない。
「ははあ、そろそろ歩き出したな。待てよ、こいつは家人ではないぞ。召使いでもなさそうだ。この歩き方は忍術の骨法だ。……これはおかしい。不思議だな。まさか俺らと同じように、金を目掛けて忍び込んだ、白浪の仲間でもあるまいが。……いや全くこれは不思議だ。浮かぶような足取りで歩いている。よし、一つ驚かせてやろう。……エヘン!」