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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
「『ははあこいつが噂に高い、辻斬り強盗の張本だな』と、私は突嗟に思いましたが、よい気持ちはいたしませんでした。で、自然と右の手が、懐中へ忍ばせた手裏剣へ、つと走ったものでございます。すると突然妹のお霜が、千切れるような声を上げ、私の袖をグイグイと、三度引くではございませんか! 『うん』と私は呻きました。合図だったからでございます。……富士甚内を目っけたら、三度袖を引くようにと、教え込んで置いたからでございます。素早くこいつが敵かと、躍り立った一刹那『亡霊追分、正体見た! 二つになれ!』とその武士が、サッと斬り込んで参りました。その太刀風の物凄さ、なんで私に避けられましょう。真っ二つにされた筈でございます。ワッ、やられた! と叫びながら、足もとを見ると妹のお霜が、真っ向から胸板まで、切り割られて仆れておりました。身代りになったのでございます。私をかばう一心から、飛び込んで来たのでございます。可哀そうなことをいたしました。でも妹はああいう片輪、なまじ活きておりますより、死んだ方がよかったかもしれません。いえいえそんなことはございません。やっぱり活きておりましたら、何彼につけて頼みにもなり、嬉しいことも楽しいことも、分け合うことが出来ますのに。