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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「ははあさようでございますかな。いやほかならぬあなたのお言葉だ。それに違いはございますまい」

「わしはな」と客は物うそうに、「五年以前あの賊のために、ひどく煮え湯を呑ませられましてな。……いまだに怨みは忘れられませんて」

「おやおやそんな事がございましたかな。五年前の郡上様といえば、名与力として謳われたものだ。その貴郎の手に余ったといえば、いよいよもって偉い奴でござるな。……おや、堤を駕籠が行くそうな。提灯の火が飛んで行く」

「水神あたりのお客でしょうよ。この大雪に駕籠を走らせ、水神あたりへしけ込むとは、若くなければ出来ない道楽だ」

「お互い年を取りましたな。私はもうこれ五十七だ」

「私は三つ下の五十四でござる」

「あっ」と突然寮のあるじ一閑斎は声を上げた。「提灯が! 提灯が! バッサリと!」

その時墨堤の方角から、女の悲鳴が聞こえて来た。

「ははあ何か出ましたな」

――与力の職を長男に譲り、今は隠居の身分ながら、根岸肥前守、岩瀬加賀守、荒尾但馬守、筒井和泉守、四代の町奉行に歴仕して、綽名を「玻璃窓」と呼ばれたところの、郡上平八は呟いたが、急にニヤリと片笑いをすると、