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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
「賊と鼓? 賊と鼓? この二つの間には、何らか関係がなくてはならない」まずここから初めたものである。で彼は何より先に、鼓に関する古い文献を、多方面に渡って調べたが、鼓と賊との関係について、記録したものは見つからなかった。そこで今度は方面を変え、鼓造り師や囃し方や、鼓の名人といわれている、色々の人を訪問し、この問題について尋ねたが、やはり少しも得るところがなかった。
「昔の有名な大盗で鼓を利用したというようなものは、どうも一向聞きませんな」誰の答えもこうであった。
「一人ぐらいはございましょう!」平八が押してたずねても、知らないものは知らないのであった。
「残念ながらこれは駄目だ」平八老人は失望したものの、
「小梅で聞いた鼓の音、何んともいえず美音であったが、いずれ名器に相違あるまい。それを鼓賊が持っているとすると、盗んだものに違いない。よしよしこいつから調べてやろう」
また訪問をやり出した。鼓造り師、囃し方、鼓の名人といわれる人、各流能楽の家元から、音楽ずきの物持ち長者、骨董商というような所を、根気よく万遍なく経めぐって「鼓をご紛失ではござらぬかな?」こういって尋ねたものである。