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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
両膝を曲げ肘を張り、ズイとしないを床上へ置いた。それと見ると田舎者も、肘を張り両膝を曲げ、しないの先を食っつけたが、「ちょっくらおたずね致しますだ」例のやつをやり出した。「平手様とおっしゃったようだが、そうすると平手造酒様だかね?」
「さよう、拙者は平手造酒だ」
「へえ、さようでごぜえますか。では皆伝でごぜえますな」「さよう、拙者は皆伝だ」「お前様さえ打ち込んだら、こっちのものでごぜえますな。ほかに出る人はねえわけだね。ヤレ有難い、とうとう漕ぎつけた。それじゃおいらも一生懸命、精一杯のところを出しますべえ」
二人はしばらくおしだまった。ややあって同時に立ち上がった。造酒はピタリと中段につけ、しないの端から真っ直ぐに、相手の両眼を睨みつけた。例によって田舎者は、二本の足を左右へ踏ん張り、しないを上段に振り冠ったが、これまた柄頭から相手の眼を、凝然と見詰めたものである。
突き出された一本の鉄扇
木彫りの像でも立てたように、二人はじっと静まっていた。双方無駄な掛け声さえしない。しないの先さえ動かない。息使いさえ聞こえない。
根気比べだと決心して、さて立ち上がった平手造酒は、水ももらさぬ構えをつけ、相手の様子を窺ったが、さっき銀之丞が感じたようなものを、やはり感ぜざるを得なかった。