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めいしょうまんげつ

名娼満月

夢野 久作

「富士」1936(昭和11)年4月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,840 字 · 37 页

青空文庫

青山銀之丞は、宝暦元年の冬、御書院の宝物お検めの日が近付く前に、今までの罪の露見を恐れ、当座の小遣のために又も目星しい宝物を二三品引っ抱えて、行衛を晦ましてしまったのであった。

播磨屋千六は、これも満月ゆえの限りない遊興に、敢えなくも身代を使い果して、とうとう分散の憂目に会い、昨日までの栄華はどこへやら、少しばかり習いおぼえた三味線に縋って所も同じ大阪の町中を編笠一つでさまよいあるき、眼引き袖引き後指さす人々の冷笑を他所に、家々の門口に立って、小唄を唄うよりほかに生きて行く道がなくなっている有様であった。

その宝暦二年の三月初旬。桜の蕾がボツボツと白く見え出す頃、如何なる天道様の配合であったろうか。絶えて久しい播磨屋千六と、青山銀之丞が、大阪の町外れ、桜の宮の鳥居脇でバッタリと出会ったのであった。

最初は双方とも変り果てた姿ながら、あんまり風采が似通っているままに、編笠の中を覗いてみたくなったものらしかったが、さて近付いてみると双方とも思わず声をかけ合ったのであった。

「これは青山様……」

「おお。これは千六どの……」

二人とも世を忍ぶ身ながらに、落ちぶれて見ればなつかし水の月。