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『わがはいはねこである』じょうへん

吾輩は猫である

夏目 漱石

一只没有名字的猫,蹲在主人身边看尽人间百态,吐槽起来比人类还犀利。跟着它的眼睛,你会发现这个世界有多荒唐又有趣。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 322,123 字 · 643 页

青空文庫

主人は懐手のままぬっと立ちながら「また人を担ぐつもりだろう」と椽側へ出て何の気もつかずに客間へ這入り込んだ。すると六尺の床を正面に一個の老人が粛然と端坐して控えている。主人は思わず懐から両手を出してぺたりと唐紙の傍へ尻を片づけてしまった。これでは老人と同じく西向きであるから双方共挨拶のしようがない。昔堅気の人は礼義はやかましいものだ。

「さあどうぞあれへ」と床の間の方を指して主人を促がす。主人は両三年前までは座敷はどこへ坐っても構わんものと心得ていたのだが、その後ある人から床の間の講釈を聞いて、あれは上段の間の変化したもので、上使が坐わる所だと悟って以来決して床の間へは寄りつかない男である。ことに見ず知らずの年長者が頑と構えているのだから上座どころではない。挨拶さえ碌には出来ない。一応頭をさげて

「さあどうぞあれへ」と向うの云う通りを繰り返した。

「いやそれでは御挨拶が出来かねますから、どうぞあれへ」

「いえ、それでは……どうぞあれへ」と主人はいい加減に先方の口上を真似ている。

「どうもそう、御謙遜では恐れ入る。かえって手前が痛み入る。どうか御遠慮なく、さあどうぞ」