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ごせいげん

呉清源

坂口 安吾

「文学界 第二巻第一〇号」1948(昭和23)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,333 字 · 11 页

青空文庫

そして、翌日の対局は、木村の見事な勝となった。

我々文士でも、その日の調子によって、頭の閃きが違う。然し、文士は、今日は閃きがないから休む、ということが出来るが、碁や将棋は、そうはできぬ。だから、対局の日をコンディションの頂点へ持って行く計画的な心構えが必要な筈であるのに、あの日の升田は、それがなかった。

だから、対局も軽卒で、正確、真剣の用意に不足があり、あの対局に限って、良いところは、なかった。この敗局は、彼のために、よい教訓であったと思う。

呉清源には、そのような軽卒は、ミジンもない。人の思惑、人のオツキアイなど、全然問題としない。もっとも、神様のオツキアイは、する。然し、これが曲者で、この神様のオツキアイも、呉清源の偉さのせいだと私は思う。

勝負師とか、すべて芸にたずさわる者の心は、悲痛なものだ。他人の批評などは、とるにも足らぬ。われ自らの心に於て、わが力の限界というものと、常に絶体絶命の争いを、つゞけざるを得ない。当人が偉いほど、その争いは激しく、その絶望も大きい。

自己の限界、この苦痛にみちた争いは、宗教や迷信の類いに直結し易いものでもあり、その混乱、苦悶のアゲクは、体をなさゞる悪アガキの如きものともなり易い。