轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
くちびるそう
唇草
岡本 かの子
「週刊朝日」1937(昭和12)年8月2日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,002 字 · 14 页
絶体絶命の表情をしていた栖子の眼の色がキラリと光った。あわや持って行きかけた千代重の左の手首を、突然かの女の両手が飛び出して握り締た。千代重の手首は折れる程痛かった。
「あんた真当にそんな真似をする気※(感嘆符疑問符、1-8-78)」
かの女は息を喘がした。
「一緒に生活しているものが、そんな嫌なことをするのは、あたしがするのも同然、気味悪いわ。止して頂戴! 止して頂戴!」
かの女の躍起となった瞳から、かの女の必死に掴んだ指から、千代重が今まで栖子からうけたことのない感覚が、薄荷を擦り込むような痛さと共に骨身に浸み込んだ。
すると、千代重は暫らく何の判断もなくなり、ただ身軽な自分がほんのり香水に温められるように、気遠くなった。掌の虫はどこかへ飛んでしまっていた。
手首の痛みがゆるめられて来ると、千代重はただなつかしい世界に浮き上り、自分の唇の真向きの位置に、少し盛り上った栖子の唇が意識された。
生身の唇と唇とは、互いに空気に露き出しになっているのを早く庇い度いように、間の距離を縮めて来た。しかし、千代重はぴくりとして、そこで止った。
「この情勢のままに従って行ったら、結局、普通平凡な男女間の暗黒な恍惚に陥るだけだ。