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もふく

喪服

久生 十蘭

「文學界」1957(昭和32)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页

青空文庫

一郎なんて、つまらねえやつだから、からかってやれと思ったことはあるけど。

浜口 そんなら、そうとしておけ……一郎は死んだよ。死体が揚がったという警察からの電話を、こうして待っているところなんだ。

八穂 とうとう……とうとう、死んだのね?……パパもママも、これで、やれやれですね。浜口の一家も、いやな評判に悩まされることがなくなった……めでたいというのはこのことだわねえ。

静江 八穂さん、あなた、泣いているの?

八穂 あたしが? 誰のために? ……(笑う)どんな不幸の中にも楽しみはあるものなのよ。なんといっても喪服は粋だからな。こんどこそ、あたしも着られるわ……誰がいちばん似合うかしら……ママかな? お姉さまかな?……お姉さまにはお気の毒だけど、やはりママのほうらしいや。

かつ、入ってくる。

かつ 警察から電話でございます。こちらへ切換えました。

秋元 (広廊の椅子から立って、電話のあるところへ行く。受話器をとって)浜口です……はあ、はあ……検証が?……それはどうも……後ほど、あらためて……(受話器をおいて、広廊に戻ってくる)検証がすんで、遺体を救急車で送ったそうです……そちらへ着くころだといってました。